【17.悪ふざけ】
「お願いです!」
「……イヤ。何度言ってもムダ」
「何度だって言います。付き合ってください!」
煌びやかに光るネオンの中、その女性は煙管で遊んでいた。
土下座した俺を一瞥もしないで、一心にそれの掃除をする。
そんな彼女の態度にムッとする。
嫌がらせのように半歩分近づくと、彼女はやっと顔を上げた。
「お願いします」
「だから、言ってるでしょ!」
眉を寄せて、グルグルと煙管を回す。
その度に飛び散る灰が、綺麗に磨かれた床を汚した。
赤く縁取られた小ぶりの唇が、拗ねるようにかたどられる。
「……童貞はイヤなの」
「そこをなんとか!」
「却下。イヤよ、そんなの」
満面の笑みで拒絶され、俺の強靭な心も折れそうになる。
でも、負けてなんかいられない。
これまで『19765回』も断られているが、それぐらいで引く俺じゃなかった。
「俺の恋人になってください!」
「……冗談やめてよね」
「冗談じゃありませんっ!!」
「……」
「……本気なんです」
無表情のまま黙り込む彼女と、その返答を待つ俺。
広すぎる豪華な部屋に沈黙が落ちる。
静寂に耐えかねて俺が動こうとすると、彼女はため息をついた。
持っていた煙管を傍らにおき、彼女はこちらに歩む。
そして、座り込んだ俺の前にしゃがみ込んだ。
「いいわよ。ほら、いらっしゃい」
「えっ……」
屈みこんだその膝の隙間から、大きな膨らみが二つ見えた。
それはひどく白くて、触ったらとても柔らかそうだ。
コクリと、自然に喉が鳴る。
俺の劣情を撫でるように、彼女は妖艶に笑う。
「あら、わたしとヤりたいんじゃなかったの?」
「ヤッ、そんなことっ――!?」
そのあまりにも露骨な表現に俺のほうが照れる。
黙り込んだ俺の脚の間に、彼女は身体を挟んだ。
俺の胸に手を当て、優しく押し倒すように力を込めた。
半開きの唇の奥、燃えるような赤に目を奪われる。
「ねぇ……やりましょうよ」
「えっ、でも……そんな」
「……ふふ、冗談よ」
雰囲気を一転して変えた彼女は、俺の上からすばやく退いた。
それに呆然とする俺に、してやったりと言わんばかりの表情を見せる。
からかわれた。それに気づくのに時間はかからなかった。
大人の彼女に追いつくのは簡単なことじゃない。
そんなことを改めて自覚して、俺はひとり頭を抱えた。
(08.09.25)