【02.お金】
「えへへ」
「……」
通帳の預金残高を見て、気色悪いほどに満面の笑みを浮かべる。
そんな彼女を俺は呆れ半分、頭痛半分で見ていた。
「幸せだなぁーー、ふふふっ」
「……」
「幸せー、お金ー」
目標預金額を超えた嬉しさに、人格崩壊する彼女。
ついには変な歌まで歌いはじめ、俺の頭痛はピークに達していた。
早く止めないと、色々と支障が出そうだ。
「そんなに好きなのか、お金……」
「えぇ、お金ってだぁーいすきよっ!」
赤く染まった顔でとろけそうに笑う。
俺だってそんな顔でだぁーいすきなんて言われたことないのに。
彼女を思わず微笑ませてしまう金に、俺はムッとする。
「そうかよ、そうかよ……」
「あらぁ、拗ねた? 拗ねちゃった?」
「……」
「ふふふっー、お子ちゃまねー」
上機嫌の彼女は、俺のおでこを人差し指でつつく。
俺はそれを無視して、彼女の手にある通帳を奪った。
預金額の0の数は、軽く6桁を越している。
これなら、彼女が浮かれるのがわかる。
ゆっくりと見ていると、後ろからさっと奪われた。
「もうっ、ダメ! これは、私の」
「……そんなこと知ってるよ」
「話は最後まで聞け」
コツンと軽く小突かれ、耳を傾ける。
ニコニコといつにもまして機嫌のいい彼女は、ピースサインと共に言い放った。
「結婚資金よ」
「へ……?」
「結婚しましょ」
俺の前の机には、よくドラマで見る指輪のケース。
それと、婚姻届。ちなみに彼女の名前、捺印、全て完璧だ。
突っ込みどころが満載なシチュエーションに、開いた口が塞がらない。
「えーーー」
「ふふふー、楽しみねー」
クスクスと笑う彼女と、机の上の指輪と婚姻届。
幸せそうな彼女の様子に、俺は敢えて無言をつらぬいた。
(08.08.08)