【25.綺麗】
半分あいたカーテンの隙間から光が差し込む。
白む空は朝が来たことをやわらかく告げる。
作業の手を一旦止めて、窓際に近づいた。
窓を開けると、そこから清々しい風が流れ込む。
夜明け特有のひんやりとした空気に誘われて、ベランダに出た。
持っていたマグカップのコーヒーが湯気を立てる。
一口飲むと、体がほんのり温まった。
遠く山の向こうに、雲に隠れた太陽が見える。
神々しくも美しいこの光景の中、あなただけがいない。
世界を愛して、私を愛して。
そのまま逝ってしまった人。
瞳を閉じれば、ほら、あなたの困ったようなはにかんだ笑顔。
人を愛して、私を愛してた。
そんなあなたの愛した、この綺麗な世界を愛してる。
生前には分からなかったから。
あなたに愛されていた世界に、嫉妬したこともあったけど。
今なら、あなたが綺麗だと連呼した、この世界の美しさが分かる。
人が好きで、何度も裏切られては泣いていたあなたの、何と愛しいことか。
あぁ、世界は、あなたは本当に美しい。
視界の端に上る太陽は、文句の付けようもなく、綺麗で。
景色が滲むのを止めることなく、ただそれだけを見ていた。
(08.07.30)