【42.奇跡】 30.夢より先に読むことを推奨

「晶さん……」

呼んでも答えが返ることはない。
無駄だと分かってはいるが、何度も繰り返してしまう。
死人に口なしとはよく言ったものだ。

生き物にはすべからく死が付きまとう。
いつかは死ぬと分かっていたはずなのに、解っていなかった。

あなたが病気だっただなんて、私は知らなかった。
死んで初めて、あなたが重い病気だったことを知ったのだ。

秘密にされていたことを思えば、苛立ちが募る。
でもきっと、あなたは私を無闇に心配させたくなくて、秘密にしていたのだろう。
不器用な優しさで、最大限に私を気遣った。

そんなあなたに心がほっこりする。
やるせないのに、どうしても和んでしまうのだ。

そうやって思い出しては、寂しくなる。
覚えている記憶は、すべて輝いて見えて、すごく切ない。
今すぐに、あなたに会いたくなった。

私の手元には、唯一あなたの遺した天青石。
清涼なブルーの美しい、天国のクリスタル。
ピアスに加工されたそれを見て、いつだって思い出してる。

窓際の小皿の上、降り注ぐ月光に照らされ、それはキラキラと光っていて。
確かにもうあなたはいないはずなのに、その石はあなたのよう。
大丈夫だよ、平気だよって慰められている気分になる。
いつかの、あの日のように。

天青石は願いを叶えてくれる石ではないけれど、願をかけたくなった。
もし願い事が叶うなら、私はあなたに会いたい。
奇跡がどうか起こりますようにって、何度でも祈る。

永遠を、神様を信じてみたいから。必ず生まれてきて。
待ってる。あなたがまた生まれてくるのを。
世界の彼方で、いつかまた、あなたに会えるのを待っている。

伏せた瞳。柔らかく差し込む月明かり。
窓辺の天国の名を持つ石は、私に微笑むように淡く光った。

<下に続く>

(08.09.28)






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【30.夢】

ガヤガヤと周りがうるさい。
私を呼び。指示を飛ばし、泣き叫ぶ声。
それのどれも、もう耳に入らない。

ぼやける視界には、うっすらと現実が見えた。
手を握る誰かに、握り返そうとしても手が動かない。
自分ももうこれまでかと、どこか他人事のように思った。

目を閉じようとして、狭まる視界に映った人に、私は驚く。
動かない身体を無理やり動かす。
指を動かすのさえ億劫だった。

透けている体。笑う顔は変わらず、優しいままで。
私の大好きな人。

「優希……」

懐かしい声。一度も忘れなかったあなた。

何年、待っただろう。
何十年、会いたいと願い続けてきただろう。

この世界であなたに会えることはなかったけど。
それでも今、また会えた。
嬉しさで胸がいっぱいで、これまで生きていて良かったと思えた。

「晶さん……」

あぁ、やっと、あなたに会えた。
幸せで、幸せで。これが夢じゃないかと思えるくらい。
夢でもいい。だから、どうか、醒めないで。

霞んでいく現実の外、慟哭が響く。
それを聞きながら、微笑むあなたを見て。
私は意識を手放した。

(08.09.30)






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