【37.眩暈】

廊下の向こう。数十メートルの地点がうるさい。
その音に確信する。

今日も会える。喜びに胸が高鳴る。
友人とギャーギャー騒ぎながら歩く彼と、一人無言で歩く私。
そのすれ違いざまにふわりと香るあの匂い。

クラクラさせられる。一瞬だけ意識全てを持っていかれた。
眩暈のような、陶酔のような、心地よい倦怠感が訪れる。
何の香りかも分からないのに、ひどく安心した。

いつもこの廊下を通ること。人の中心にいること。
私が彼について知っているのはそれだけ。
名前も科も、それどころか生徒かどうかも知らない。
でも、私は他の情報は必要ないと思っている。

その匂い。私に眩暈を及ぼすその香りだけ。
私が欲しいのは、それだけ。

(08.07.15)






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