【44.うなじ】
「不安かい……?」
「……ううん、不安なんてないよ」
強い力で抱きしめられてるはずなのに、どこか足元が覚束ない。
『不安』なんて言葉じゃ足りないくらいに心細い。
二人でいるのに、私はひとりぼっちだ。
「……君は、嘘が下手だね」
「……」
「そんな不安でいっぱいですって顔をしているのに、誰が信じると思う?」
目の前には貴方がいる。
それは確かなのに、どうしても淋しさが消えない。
心にぽっかり穴が開いたみたいだ。
「愛してるよ」
「……ホントに?」
「うん、本当……」
あぁ、この不安感の原因が分かる。
貴方の言葉には、心がこもっていない。
いくら愛を囁かれても、それに真剣さが足りないのだ。
私は、その言葉をどれだけ信じていいのだろうか。
そうやって、何度も疑ってしまう。
どうせ嘘を吐くなら、もっと上手くついて欲しいのに。
「いいか?」
「……うん、いいよ」
返事と共に、意図を持ってうなじを撫でる手。
途端、粟立つ体に唇をかむ。
考えを奪うような行為に、いつも誤魔化されてしまう。
どれだけ嫌だと思っても、逆らえない。
そうして、溺れていく。
(08.07.30)