16.イエローカード それは、反則でしょ? * * * なんで、こんな人好きになったんだろう。 少しだけいつも不思議に思う。 もともと私の好みどおりの人じゃないんだけどな。 だって、私の好きなタイプは、背が高くてクールで落ち着いた年上の男の人。 でも、今の彼氏は、背は私よりは高いけど、男の子としては普通くらい。 クールとは正反対でふざけたような奴。 落ち着きなくて、しかも年下。 何たって高校生。 よく考えると犯罪。 だって私は、二十歳過ぎてるし。 「叶華〜」 緊張感のない声がふすまの向こうから聞こえる。 今度は何をしたんだか。 叶華は、呆れながら寝室に向かった。 「何?何の用?」 寝室に入ると、見たくもない状況になっていた。 「どうしてこうなるの?」 「さ〜、分かりません」 部屋の中は足の踏み場もない状況だった。 彼が開けたのだろう押入れからたくさんのものが出てきている。 その彼は荷物の下敷きになっている。 「助けてくれたりしないよね〜」 「当たり前でしょ。自分でそれくらいしなさい」 私は近場に落ちていたものを拾う。 「でも、片付けは手伝ってあげるわ。だから早く起き上がって」 そう言って、次々と落ちているものを拾っていく。 「あっ、手伝ってくれるんだ」 「だって、あなたが埃を舞わせている限り、ご飯の支度なんてできないでしょ」 そっけなく言って片付けを続ける。 「でも、嬉しいな」 彼が笑いながら言ってきた。 「何が?」 私が不審に思って聞き返すと、彼は満面の笑みでこう続けた。 「叶華が手伝ってくれるなんて珍しいじゃん。それが嬉しいだけだよ」 すごく無邪気な顔でこんなこと言われたら、普通はただ嬉しいんだろうけど。 「褒めても何もでないわよ?」 「それは期待してないって」 疑う私に笑いながら否定する彼。 「そんなことより、早く片付けような。手伝うって言ったんだから最後までやってくれよ」 他の一般家庭ならこういうことはお母さんがしてくれるものよ? 彼の家庭は特殊で、私も全てを知っているわけではないけど、高校生だけど一人暮らし。 実家には全然帰っていないみたい。 まともに料理ができないのに一人暮らししようとするんだから、無謀よね。 そんなことを考えているうちに作業の手が止まった。 「おい、叶華。手が止まってる」 何で帰らないのかな? 「もしかして寝てる?」 家族と仲が悪くて帰りたくないとか…。 「起きろ!寝るには早いぞ〜」 「ひぃ」 耳元でした大きな声に驚いて、変な声が出た。 「何っ!驚くでしょ〜。耳元で騒がないでよ」 不満顔のまま振り向くと、拗ねたような顔に会った。 「話を聞かないお前が悪いだろ」 「いつも、いつも、俺の話なんて聞いてないよな」 「そっ、そんなことないでしょ!被害妄想よ、そんなの」 喧嘩し始めると、お互い我慢することなく言い合ってしまう。 「いや、叶華は俺が話している時だって他の事ばかり考えて、俺の相手はしてくれないんだ」 「聞いてるわよ。でも、私が知りたいことは何一つ話してないわよ」 私はこのチャンスを逃してはいけないと思い、口を開く。 「例えば、何が知りたいの?」 「あなたが家出してきた理由よ」 「・・・・」 「ほら、話さないじゃない。あなたが話す気になるまで、ご飯なんて作らないからね」 ズルイ手だと分かっていても、これぐらいしないと彼の重い口は開かない。 「・・・家が嫌いだから。父親も母親も…俺にとっては、足枷でしかないし。 とにかく離れたくて、荷物まとめて家飛び出したけど、行く当てなくて困った所に叶華がいたんだよ」 そういう彼の表情は本当に穏やかで、 「叶華がいなきゃ、今、俺は生きてもいなかったかもしれない」 私の心臓が意思に関係なく勝手にスピードを上げて… 「ありがとう。俺は今、とても幸せだよ」 彼は私の欲しい言葉を照れもせずにくれた。 もしかしたら、こういう気障なところが『すき』なのかも…。 でも、それを素直に口にしたら、彼を喜ばせるだけで、悔しいから照れ隠しに意地を張ってみる。 「それはよかったわね。私なんて一歩間違えたら未成年者略取で捕まるんだから」 そう言ってそっぽを向く。 「いいんじゃない?俺も一緒に逃げてあげるよ」 その言葉と同時に彼の手が私のあごに伸びてきて、無理やり彼のほうに向かされる。 「叶華も俺といるほうがいいよね」 にこりと笑いながらだんだん近づいてくる顔。 「俺も叶華がいないと生きていけないから」 そんな殺し文句は誰が見たって反則でしょう? それだけ言われて断れると思う? 私は観念して口を開く。 「地獄までついてきてもらうわよ」 近づきすぎた視界の中で彼が唇の端で笑ったのが見えた。 そして、諦めて目を閉じた。 珍しく"純"なものになりました。 |