あなたと片恋#5

1.同情




「そうやって、優しくしてくれるのは、同情ですか?」
「えっ……」

私の辛辣な言葉にあなたは黙り込む。
あからさまに言葉をなくして図星ですって顔をしたら、黙り込んだって肯定しているのと同じだ。
そんなことにも頭の回らないあなたに、少しだけいらつく。

カウンター席の近距離。
腕と腕が触れ合うくらい傍にいるのに、私たちの距離は遠かった。

「私に同情したから、優しくしてくれてる。そうなんでしょう?」
「そっ、そんなこと」
「ないなんて言えないですよね?」

たたみかけるような私の言葉に目をそらす。
本当に嘘のつけない馬鹿な人。
でも、私はそんな所が好きになったのだ。

ということは、私の方が馬鹿なのか。
自分の考えに納得する。そう考えた方が妙にしっくり来た。

「……やっぱり」
「真帆さん……」
「……っ、触らないで」

伸ばされた右手を冷たく払いのける。
それに傷ついた顔をするあなたに、不快感を煽られる。

あなたより私の方がよっぽど傷ついている。
中途半端に優しくて、中途半端に紳士なあなたの態度に何度涙をこぼしたことか。
張本人のあなたにはそんなこと、口が裂けても言わないけど。

最初は同情でも構わないと思ってた。
隣にいてくれるならそれでよかったけれど、今はその先を期待したくなってしまった。
けれどあなたは、これ以上私と深い関係になることを望んでいなくて。

それに私は傷ついていた。
優しいのに。その優しさは、私の心を容赦なく抉る。
意図せず、どこまでも深く。痕の残るような傷をつけられた。

それで悟ったのだ。
あなたが私に向ける感情はあくまで同情でしかない。
恋情なんか向けられない。思っていても辛いだけだ。

グラスに入ったテキーラのロックがカラリと音を立てる。
それに我に返って、隣に置いたコートを手に取った。

「同情なんかで優しくしないで。期待しちゃうから」
「真帆さん……」
「そんなの辛いだけ」

財布から一万円札を出して、カウンターに置く。
コートを引っ掛け、早々に踵を返す。
もう別れた相手に奢ってもらう義理なんてなかった。






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2009.02.21