青年と水着
























「あぁ、どうしてこう無駄に晴れてるんだ……」

ある晴れた日、一人の男が呟いた。
海辺で一人淋しく佇むその男は、真冬のこの珍しく晴れた日に不釣合いなほどに陰鬱な顔をしていた。

「ずっと夜のままでいいのに。あ〜、面倒だ」

呟いた声を海風がさらい、波打ち際に太陽の光が優しく降り注ぐ。
かれこれ四時間は体育座りのまま、動かなかったので腰が痛かった。
だから、立ちたくもないし、第一立つのが面倒だった。
そのまま怠惰に時間を浪費していると、視界が暗転した。
顔の上の違和感に、それを掴む。

「水着……、どうして?」

顔に乗っていたそれは、男物のスクール水着で、どう見ても子供用サイズだった。
そもそもどうして冬の海に水着があるか分からない。

「どこから……」

キョロキョロと辺りを見渡しても、誰もいない。
それならこの水着はどこから飛んできたのだろう。
水着が一人歩きするはずもないし、していたら怖い。

「何を悩んでるの?」
「何って……」
「探しても誰もいないわよ」
「そうだな、誰もいないって……」

この違和感はなんだろう。
自分は誰と話している?

「ここよ、ここ」

声の聞こえる方を見ると、ただのスクール水着が一つ。
じぃーっと見つめていると、その水着はむくりと起き上がった。
起き上がった……、起き上がったっ!?

「んな馬鹿なっ!」
「いや、馬鹿はあんただし、これは現実」

手と足が生えたそれには目と口もついている。
どう見ても、水着……ではない。

「お前、何だよっ!」
「そうね〜、九十九神ってところかしら?」
「九十九神……?」
「物に宿る神様のことよ。そんな事も知らないの、馬鹿ねぇ〜」

オカマ口調の水着に馬鹿にされた……。
そんな些細なことがとてもショックだった。
もう立ち直れないかも……。

「あら、これ何?」
「あ、ここれはっ……」

傍らに置いておいた封筒を水着が開ける。
そこから出てきたのは、出版社からの評価表と落選通知。

「あら、あなた……作家志望なの?」
「そうだよ、悪いかよ……」

きょとんとした顔をした水着がこちらをみる。
その視線を感じたくなくて、目を逸らした。

「ふ〜ん、あんたが……」
「文句あんのかよ」
「顔に似合わないわね」
「うるせーー」

作家になりたくて、今までずっと努力してきた。
同世代の人たちが「◇◇に行って、○○で遊んだ」と行ってた時も、ひたすらに小説を書いてきた。
でも、自分はいつまでも夢を追いかけたまま、そいつら達はもう大人になって社会に貢献してる。
どう足掻いても、自分はまだこの年になっても親の脛をかじった甘えた子供のままだ。
一人置いていかれている気がして、焦る心をとめることが出来ない。

だから、海に来た。
海を見ていると、心が癒された。漣の音に時間を任せる。
それはとても穏やかな時間だったから。

物思いにふける自分の服の裾を水着が何度も引っ張る。
いい気分が台無しだ。

「人生の希望を失った青年が……ってあんたじゃない」
「うるさいよ……」

なまじ間違っていないだけに腹が立つ。
何度目になるか分からない落選通知に、心身ともに疲れ果てている。
そろそろこの夢を諦めようかと悩んでいた。

「そうだわ、この出会いを小説にしてみなさいよ」

「はぁっ!? これを書けってか?」
「そうよ、入賞間違いなしよ」

確かに楽しい小説にはなりそうだが、心境的には微妙だ。
水着の助言で書いた小説が入賞。
何の悪夢だ。

「ほら、手伝ってあげるから帰るわよ」
「お前、付いてくる気かよ……」
「暇なのよ〜、ほらつべこべ言わず行くわよ」
「へいへい……」

そして後々、男がこの出来事を小説にすると見事に入賞した。
そのとき、男は「水着も馬鹿に出来ない……」とコメントしたのだった。





学校の課題用に書いたので、恋愛要素は何一つなし。
私の小説としてはかなり珍しく三人称を使ってます(?)
これはお題が出ていたんですが、「ある晴れた日」「海辺で」「人生の希望を失った青年が」「水着」「腰がいたかった」「遊んだ」です。
5W1H、全て指定されてましたとさ。
こんなん書けるかーー!!
まぁ、何とか出来上がりましたが。。。
総制作時間は1時間。よくやった自分。
もうこんなことしたくありません(笑)





(07.09.04)