秋の菖蒲(あやめ) コンビニ編<1>




「こんばんはー、菖蒲ちゃん」
「いらっしゃ……いませ」

夜も更けた頃のコンビニ。
ガラガラの店内に入ると、そこには俺の愛おしい人。
コンビニの制服もよく似合う。

「やっぱりここで働いてたんだねー」
「……」
「ふふ、すっごい偶然。やっぱ俺たちって赤い糸で結ばれているんじゃない?」
「お客様? 何をおっしゃっているのか意味が分かりません」

あんぐりと口をあけていたのに、気を取り直したのか態度が冷たい。
さっさと出て行けと全身から不機嫌オーラを出している。
そんな所がまた可愛いんだよなーなんて俺が思ってること、菖蒲は想像もしていないんだろうな。

「だってさ、たまたま入ったコンビニで好きな子がバイトしてたんだよ? これを奇跡と言わず何を奇跡と呼べばいいんだ?」
「たまたま……お客様、ほかのお客様の迷惑になりますので、静かにしていただけますか?」

俺が興奮するのと反対に菖蒲はどんどん冷めていく。
その反応が楽しくて、ついからかってしまうのだ。
彼女の母親にバイト先を聞いておいて良かった。

「えー、他のお客様なんていないじゃん。まだこんな時間なのにガラガラ」
「……その通りですが」
「だから、遊ぼうよー。ねっ、菖蒲ちゃん!」
「……お客様?」

絶対零度の声。
それに俺がハッとした瞬間に菖蒲が近づいてくる。
監視カメラの死角に引き込むように、菖蒲は俺の腕を握った。

「私が優しくしている内にやめなさい。じゃなきゃ監視カメラに映らないように殴る」
「……はい、今すぐやめるんで、その……あの」

思いっきり握り締めているその手を離してくれると嬉しいかななんて思う俺。
冗談なしに痛い。

「それで、何かお買い上げですか?」
「……何時まで?」

すんなりと離してくれた手には、痕がついている。
爪の形がくっきりついたそれはほんのりとエロい。

「何かありますか?」
「じゃあ、肉まんと缶コーヒー。ホットで」

レジに並んで注文をする。
テキパキと準備をしてくれる菖蒲に代金を渡した。

「待ってるよ。一緒に帰ろう?」
「あと二時間も……?」

菖蒲は目を見開いて、俺を見た。
俺は何か変なことを言っただろうか。
二時間でも三時間でも、菖蒲のためなら俺は何時間でも待てる。
たとえ、外が冬真っ只中だとしても。

「寒いけど、頑張る……」
「……勝手にすれば」
「うん、勝手にする」

菖蒲の許可が出たことだし、俺は店の外で菖蒲を待つことにした。






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2008.10.07