3.

「わっ、えっ、椎名?」
「……松田」

全力疾走した廊下の角、思いっきりぶつかった人に身体を支えられる。
その顔を見上げると、隣のクラスの松田で、あたしは咄嗟に顔を隠した。

「な、なんで泣いて」
「……」

あたしはすぐに隠したというのに、バッチリと泣き顔を見られてしまったようだ。
潤む視界を、ゴシゴシとこする。もう涙も止まっていた。

「これ、あげる」
「え……チョコ?」

持っていた紙袋ごと、松田の胸に押し付ける。
松田は素直にそれを受け取り、目を白黒させた。

「え、ほんと、俺にっ?」
「うん……もう必要ないから」

チョコを抱え、嬉しそうに目をキラキラさせる松田には悪いが、それはお下がりだった。
あげたかった人には、受け取ってすらもらえなかった。
でも、それを持って帰る気にはなれなくて、あたしは押し付ける人を探していたのだ。

目を伏せてあたしは黙り込む。
その様子に、松田は何かを察したのか、眉を寄せた。

「これって……」
「お願い。もらって」

この行き場のない恋心と一緒に。
何の関係もないあんたが、あたしの気持ちごと食べてしまって欲しい。
これをあげたかった人にはもう、気持ちは伝わらない。あたしは拒絶されたのだ。

頼み込んだあたしに、松田はチョコの紙袋を開けた。
綺麗にラッピングされたブラウニー。
それを見て、松田はひどく真剣な顔をする。

「いいけど、俺期待するよ?」
「……勝手にすれば」

その真剣な眼差しに目をそらす。
これ以上、松田といたくなくて、その場を後にする。
一度だけはねた鼓動に、あたしは気づかないフリをした。






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2009.02.14