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「盗られた彼女」

「おい……」
「……」

少しだけ伸びた髪に、赤く色づいた唇。
生気の抜けた白い肌は、こんなにも美しい。
けれど、それは生きている人間ではありえない。

握った手から伝わる体温は微弱なもので、何度も鼓動を確かめずにはいられない。
よかった。微かに感じる、彼女が生きている確かな証。

「おいっ、ウィル」
「あ……あぁ、先輩……」

突然、肩をつかまれゆっくりと振り向く。
そこには憔悴した様子のサイラスがいた。

「お前は……いつまで呆けてる」
「……呆けてなんて、いませんよ?」
「嘘つけ」

あの時からずっと傍にいる。
片時も離れない。否、離れられないのだ。
消えそうで、あの幸せが嘘だったといわんばかりに、全てなくなりそうで怖い。
いくら呼んでも目を開けない彼女とこの白い部屋に狂いそうになる。

「URCの奴らも心配してるぞ」
「……」

心配……。
みすみす彼女をさらわれてしまった僕に心配なんてしてもらう資格がない。
それを告げると、サイラスは長くため息をついた。

「そこにいたって何も変わらない。救えないんだぞ」
「……」

起きた時に僕が傍にいなかったら、彼女は寂しがるかもしれない。
そんな事を考えたら、ここから動くことは出来なかった。

「また……諦めるのか?」
「っ――」

鋭い言葉に、古傷を抉られる。
それは容赦のない言葉の刃だった。

どうして僕は、彼女をこの腕の中に留めておけなかったのだろう。
僕が手に入れた唯一のものだったのに。

すり抜けてしまった。
取り返せない。でも、取り戻したい。
どうしても、帰ってきて欲しい。
彼女がいないだけで、こんなにも世界は息苦しい。

「ほら、いい加減立て」
「……」

サイラスはずっと座り込みっぱなしだった僕の腕を掴んで、無理やり立たせる。
そして彼は、さっさとこの白い部屋を出た。
すれ違いざまに呟いたその言葉に、僕は返事をする。

『取り戻すぞ』
「……えぇ、必ず」

何を犠牲にしても、ユノだけは渡せない。
彼女は僕のものだ。

「待ってて……」

青白いその手の甲に口付けて、部屋を後にした。
たとえ彼らを敵に回しても、彼女を取り戻す。
残された僕に出来ることといえば、それしかなかった。





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ROUTE666のナルセキリエさまに捧げます!