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01 観察日記(エイプリル+ルート&ユノ)

「うわー、すごい」
「これが俗に言うカブトムシかー」

私が知り合いからもらった虫かごを、物珍しそうに観察する子供たち。
その表情は今まで見たどれよりも幼く、大人びた二人を相応の年齢に見せた。
それだけでこれを持ってきたことは正解だったと思う。

「うわ、動いたっ」
「えっ、どれっどれっ?」

カブトムシ一つであれだけはしゃげるのだから、ルートもまだまだ子供だ。
キラキラと目を輝かせて、ユノちゃんがルートの傍に寄った。
途端、少しだけ頬を染めるルートに微笑む。
やはり、子供だ。

「エイプリルさんは見ないんですかー、楽しいですよー」
「そうだよ、何で見ないんだ?」

離れたテーブルから観察されていたことも知らずに、無邪気な子供達は私に問う。
澄ました顔でコーヒーを飲んでいる私だけど、実は虫が苦手だ。
ここまで持ってくるのも苦労した。主に精神的に。

「……私はあんた達観察してるほうが楽しいわよ」
「「えっ――!?」」

衝撃を受けている二人を一瞥して、クスリと笑う。
遠く何処かで、セミが鳴く声がした。





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02 浴衣(アルベルト)

「あっ……」
「おや、お嬢さん。一人かい?」
「貴方こそ……」

道と道の交わるところ。
沢山の人が行き交うここで、制服姿のハスラーさんと会った。
予想外の出来事に、少しだけ緊張する。

「私は巡回だよ。君は?」
「……ルートを待ってるんです」
「そうか……」

納得したのか頷くハスラーさんは、私の姿をみて固まる。
思わず首をかしげると、大きなため息をついた。
私、知らず知らずのうちに何かしたのかしら?
もしかして、浴衣が似合わない?

「こっちに来なさい」
「……」
「とって食いやしない。ほら」

その言葉に恐る恐る近づくと、くるりと身体を回される。
背後に回ったハスラーさんの手が帯にかかる。
何をされるのかと焦って手を掴もうとすると遮られた。

「まったく帯が崩れているじゃないか」
「えっ……」
「きちんとしなさい」

手早く直すと、私を正面から見据える。
その視線にまた緊張して、視線が泳ぐ。
そして、次の瞬間。ハスラーさんはふわっと微笑った。

「浴衣、よく似合うな」
「っ――!?」

頬に伸びた手が、そこを撫でる。
触れたところからゆっくり熱くなって、私は泣きたくなった。

「ユノーー」

ルートの呼ぶ声が、人ごみから響く。
苦笑して、ハスラーさんは手を離した。

「さて、私は去るとするか」
「……」
「また会おう、お嬢さん」

ポンと頭に乗せられた手。
去ってゆく背中。熱い頬。
離れた手を淋しく思ったこと。

忘れられない、この夏の思い出。





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03 花火(ノディ)

「花火大会なんて、久々だよ。誘ってくれてありがとう」
「……ノディさん、用事入ってなかったんですか?」
「あ、うん。もちろんだよ」

隣に座るノディさんの顔を見る。
完璧な笑顔。それが嘘くさい。
そんな顔をしているときは、十中八九嘘だ。

「それ、嘘ですよね?」
「……君には、負けるよ」
「仕事は終わったんですか?」
「うん、終わらせてきたよ」

そう言って、苦笑するノディさんは本当に終わらせてきたのか、少し疲れた顔をする。
きっと無理をして終わらせてきたのだろう。
私のために頑張ってくれたことが嬉しくて、思わず微笑む。
見上げる花火は、盛大な音を立てて夜の空を飾る。

「アキームさんが嘆いてますよ。ノディさんが仕事をしないから」
「……アキームと連絡取ってるんだ?」
「え……はい、たまに」

少し冷たくなった声に、ノディさんを見ると、膝に置いた右手を掴まれた。
強い力で拘束される手首に、真剣なノディさんの表情。
私は息を呑む。

「あの、ノディさん?」
「妬けるな……」
「花火、見ないんですか?」

後退して逃れようとするけれど、ノディさんはそれを許さない。
同じように左手も掴まれ、迫られる。
近距離にある美しい顔は熱をおびて、私にもそれをうつした。

「いいんだ、地上にもっと綺麗な花があるから」
「え……?」
「綺麗だよ、ユノ」
「っ……!?」

ストレートなその言葉に、顔が熱くなる。
頬に添えられた手が冷たくて心地よい。
花火の音がすごく遠かった。

「今日はこのまま持ち帰ってしまおうか」
「の、ノディさんっ!!」
「ふふっ、冗談だよ」

可笑しそうに笑う声に、頬に熱い感触。
思わず絶句する私を見て、ノディさんはさらに笑う。
怒る私の声が、花が咲いた空に高く響いた。





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04 夕立(ディアス)

「すごい雲……」
「早く帰らないと夕立になりそうだな」
「うん、急ごうか」

買い物の帰り道、遠く黒い雲を見る。
それはこちらに近づいてきていて、私たちを急かした。
走る私の足元に、ポツリと雨が落ちる。

「えっ、降ってきた!」
「あともう少しだ」
「うん……」

それは、すごい勢いの夕立で基地まではもうすぐだけど、私達は雨宿りをすることにした。
適当な軒下に入って、びしょびしょになった服を絞った。
ザーザーと雨の音は止まらない。

「すごく降られちゃったね……」
「あぁ、お前は大丈夫っ―――!?」
「え……ディアス?」

私を見て、思いっきり顔をそらしたディアスを覗こうとする。
すると、何か柔らかいものが顔面に当たった。

「これ、着てろっ!」
「え、うん。ありがとう」

それは濡れていないジャケットだった。
どこから取り出したのか分からないが、ありがたく貸してもらう。
雨に濡れて、少しだけ寒かったのだ。

「雨、止まないね……」
「……あぁ」

いつも以上に口数の少ないディアスと二人。
見上げる空はどこまでも雲で。
雨は止め処もなく降っている。
それでも、不思議と居心地が悪いと思わない自分に、何故か笑みが零れた。





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05 アイス(ルート)

「暑っーー」
「暑ーい」

気温30度。
クーラーなんて気の利いたものがない室内で、ルートと二人床で伸びていた。
開けた窓から入る風すらも生温かく、うだるように暑い。

「ルート……食べようよ」
「ダメだ。まだおやつの時間じゃないだろ?」
「でも、あと10分だし……ね、食べよ?」
「……しょうがないな」
「やったぁーー」

ルートから出たOKサインに、冷蔵庫に向かう。
開けたドアから流れ出る冷気に名残を惜しみつつ、目的のものを手にルートの元に戻った。

「はい、アイスだよー」
「サンキュ」

封を開けて、その冷たいお菓子に齧り付く。
茹りそうだった身体にきーんと染み込む。
今日一日暑さに耐えたご褒美は、他のどんなスイーツよりも美味しい。

「おっ、そっちのほうが美味そうだ」
「る、ルートっ!」

パクッと横から齧られた棒アイスには、ルートの歯型がくっきりとついていた。
それをみて、ルートを見て、もう一度それを見る。
食べたら――間接キス。
頬の温度が、さっきより上がった気がした。

「ユノ、顔真っ赤」
「真っ赤じゃないっ!!」

からかうようなその言葉に、言い返して、勢いよく齧りつく。
冷たいはずのそれは、もう冷えてなんてなかった。





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06 虫さされ(イサ)

「何にもないじゃない」
「あともうちょっと待ってみよう。ね?」
「……あと少しだからねっ!」
「うん」

イサと二人で、草むらをかき分けて進む。
懐中電灯一つの夜の森は暗くて、前が見えない。
でも、繋いだ手のぬくもりだけは確かだ。

「……もうヤダ」
「え……?」
「君が見たいって言うから来てみたのに、見れないじゃない」
「ちょっと、イサっ」

前を歩くイサが突然止まって、私はその背中にぶつかる。
拗ねた声の愛しい人は、私の手を握ったまま踵を返す。

「帰る」
「ちょっと、待って」

虫さされの目立つその腕を引いて、私は指を差す。
その方角には、私達の目当てのものが居た。

「え……」
「蛍だよ……」

淡く命を燃やすその虫は、ほんわりと闇の中光る。
その様子を呆然と見ているイサを見て、来てよかったと思った。

「ほら、見れたじゃない?」
「……」
「綺麗……」

次第に増える蛍に、イサの顔が普段とは比べ物にならないほど、穏やかになっていく。
二人並んで見たたくさんの蛍は、すごく綺麗だった。





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07 日焼け(ウィル)

「痛ーい」
「はい、ローション」
「ありがとう、ウィル」

痛みに顔をしかめる私に、ウィルはそれを渡した。
中身をだして腕に塗るとしみる。
隣に居るウィルの肌は、赤くなるわけでもなく白くて、私を苛立たせた。

「私は日焼けしてるのに、ウィルはどうして日焼けしないの!?」
「うーん。どうしてだろうね」
「ずるいっ!」

私と同じだけ外に居たのに、全然焼けないウィルをずるいと思う。
女の子として、とても羨ましいスキルだ。

でも、白く透明な肌を持つウィルと並びたくない。
焼けた黒い肌の女の子なんて可愛らしくもないじゃないか。

「日焼けしてもいいんじゃないかな?」
「え……」
「僕は……白くない、こんがり焼けた君の肌も嫌いじゃないよ」

にこりと笑って、日焼けした私の腕を撫でる。
その言葉に恥ずかしくなって、私は目を逸らした。

「……ずるいわ」
「うん、そうだね」
「ウィルはずるい……」

俯いて、そう呟いた私の髪を手に取り、ウィルはクスリと笑む。
その笑みに顔を上げた私のあごをすくって、顔を近づける。
ぼやける視界に、私は目を閉じた。





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08 夏風邪(ジェラルド)

「大丈夫ですか、ユノ?」
「うーん、へぇーき」

そう呟いて、弱々しく微笑むユノの額に手を当てる。
熱い。全く平気なんかじゃない。
眉を曇らせた僕を見て、ユノはバツの悪そうな顔をした。

「……全然大丈夫じゃありませんね」
「うん……ごめん」
「いいえ、お気になさらずに」

掛け布団から少しだけ顔を出して謝るユノに、苦笑いを返す。
水に浸した布をその額に乗せる。
冷たいそれのおかげか辛そうなユノの表情が和らいだ。

「お水、もらっていい?」
「……はい、どうぞ」

水差しに入れた水を、手ずからユノの口元に運ぶ。
熱のせいかそれには何の反応もせず、ユノは僕の持つ水差しからコクコクと水を飲んだ。
飲み損ねた水が、口の端から漏れ、喉を伝う。
その軌跡を辿ろうとして、目を逸らす。

寝巻きの内側がこの角度からだとよく見えた。
姉の看病で慣れているはずのそれをひどく艶かしいと思った。

「ユノ……」
「……ジェラルド?」

思わず呟いた名前に、返答があって固まる。
声の主を見ると、熱を含んだ潤んだ瞳にぶつかる。
上気した頬に、熱くなった身体。濡れた瞳を可愛いと思った。

「そのとろーんとした目で見られると……」
「んーなぁにぃー?」
「いいえ、何でもありません」

頭を振って煩悩を振り払う。
気がつけば、風邪を引いたユノより僕の身体のほうが熱かった。





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09 縁日の屋台(プラエ)

「楽しい?」
「うん、楽しいよ」
「……そう。よかった」

見えない同行者に話しかけられる。
傍観していた屋台から隣に目をやった。

他の人には不可視のプラエと話すときは、人一倍気を使う。
けれど、その努力も二人でお祭りにくることに比べれば大したことない。

なのに、気を使ったのか、プラエは楽しいかなんて訊く。
それに私は内心慌てて、強引に話題転換をする。

「あ、そうだ、お好み焼き買って!」
「……」
「そっか……プラエ、食べれないんだもんね」

地雷を踏んで、目を逸らす。
この話題はプラエと居るときはタブーなのに、そんなことも忘れてしまうなんて。
思慮の足りない自分が嫌になる。

目の端に映った彼の手に顔を上げた。
頬に触れるように寄せられた手は、温かさもなければ冷たさすらない。
その事実は、私を切なくさせた。

「ごめんね、ユノ」
「……どうして、プラエが謝るの?」

笑っているのにどこか覚束ない顔をして、プラエは謝罪を繰り返した。
その表情に思わず腕を掴もうとする。

でも、触れられない。
改めて突きつけられた現実に、胸が張り裂けそうになる。
唇を噛んだ私に、プラエは優しく微笑む。

「君にそんな顔をさせたくてついてきたんじゃないんだよ」
「……」
「僕は、ユノと一緒にいられるだけで十分。ユノはそうじゃないの?」

柔らかく気遣うように綻びる顔に、私もつられて微笑む。
その言葉は、寂れて凍りついた私の心をじんわりと溶かす。

一緒に居られること。それだけでも十分奇跡なのに。
そんな大切なことを忘れていた。
それを思い出させてくれたプラエに愛しさが増した。

「……そうだね。行こうか、プラエ」
「うん、次は金魚すくいだね」

微笑んだ私に、にこりと笑みを返すプラエ。
触れられない手を繋ぎ、二人喧騒の中に戻る。
今、このときがずっと続けばいいと、そう思った。





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10 プール(レイン)

「見て見てー」
「お、バレーボール。遊ぶか?」
「うん」

休日の屋内プールは、親子連れ、カップル、果てはお年寄り。
そんな沢山の人で賑わっていた。
落ちていたバレーボールを拾って掲げる。
すると、レインは口元を吊り上げて、私に笑ってみせた。

「よし、勝負だ」
「……望むところよ」

珍しく好戦的なレインに、わたしも挑戦的な笑みを見せる。
絶対にレインには負けない。

ボールを手にとって、高く突き上げる。
弧を描いてレインの元に落下するボールは、すぐに私の元に戻ってきた。
ラリーを続けていると、一際高く上がるチャンスボール。

それに勝利を確信する。
視界の端に口を開けたレインの顔を捉え、私はほくそ笑んだ。

「私の勝――きゃっ!」
「ユノっ!」

水に足をとられる。
傾く身体。暗転する視界。
温かい何かに触れる。

「ったく、危ない。足元見なきゃダメだろ?」
「ご、ごめんっ。えっ――」

見上げた先は、レインでいっぱいでそれ以外何も見えない。
抱えるように腰に添えられた手や、吐息が重なるこの距離が正常な判断を許さない。
熱を含んだその瞳に吸い込まれそうだと思った。
近づく顔。私は目を閉じる。

瞬間、離される身体。
驚いてレインを見ると、太陽も真っ青なほどに赤くなっていた。

「ごめんっ!」
「ううん、こっちこそっ……」

これ以上気まずくならないように、目を合わせないようにする。
押さえた頬は予想以上に熱い。
それすらも冷ますような、冷えたプールの水に、心から感謝した。





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