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01 恋人みたいな(ノディ) 「ほら、ユノちゃん。さっさと降参して」 「いや、です……」 差し出したスプーンの上、クリームたっぷりの甘いケーキ。 そして、少し困惑した表情を浮かべる僕の愛しい人。 「はい、あーん」 「……」 「あーんして」 馬鹿みたいにしつこく「あーん」と繰り返す僕とスプーンを、まだ混乱した面持ちのユノは交互に見つめる。 そんな仕草が言葉では言い表せないくらい可愛くて、僕は思わず微笑んだ。 「あーん」 「……もう、しょうがないですね……」 照れながらも、ユノはフォークの上のケーキにパクリと食いついた。 その顔は熟れた果実のように、赤い。 「おいしい?」 「……甘い、です」 問う私から、必死に目をそらすユノの小さな努力が微笑ましかった。 そんなことしたって、顔が赤いのは誤魔化し様もない。 「ふふ、ごちそうさま……」 「え……?」 僕の言葉にユノはやっとこちらを向いた。 交わる視線。ユノは訳の分からないといった顔をした。 「どういう意味ですか……?」 「……ナイショ」 「えー、教えてくれてもいいじゃないですか」 嬉しさと少しの気恥ずかしさに、頬が緩む。 君の表情が僕にとって一番のご馳走だなんて、面と向かって言えるはずもないじゃないか。 |
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02 悪戯をする5秒前(イサ) 「イサー?」 隣室で潜っているはずのイサに話しかける。 今回の件はたいしたことないって言っていたから、そろそろ戻ってくるはずなのだけど。 何の反応もない。 「イサ? 入るよ」 申し訳程度にノックをして入室する。 壁に背をつけてベットに座り込んでいるその姿から、軽い寝息が聞こえた。 「あ……ふふっ、寝てる」 ダイビングをしてすぐに眠ってしまったみたいだ。 つけたままのゴーグルを外し、ベット脇のサイドテーブルに置く。 コトリという音が思ったより室内に響く。 「いつもこんなんだったら、可愛いのになー」 傍らに膝をついて、ふにふにと頬っぺたをつつく。 私とイサの重みで沈み込むベットの感触に良く似ている。 柔らかさは極上。いつまでも触っていた気分だ。 「むむむ、スベスベでサラサラ」 肌はとても滑らかで、髪は櫛通りの良さそうなサラサラ具合だ。 染めているのに、絡まることのない髪は、とても羨ましい。 「いいなー、イサ」 「……何が?」 「えっ……」 呆けた返事を返した瞬間、軽く触れた柔らかいもの。 それの正体に気づいたとき、私はイサから充分な距離をとった。 「いま、何……してっ」 「んー、何って……キス?」 いや、私に聞かれても。 ――って、それよりも、どうして私に!! 「なっ、何で……!?」 「近づいてきた君が悪いんじゃない」 「でも、どうしてっ……」 この友達以上恋人未満の状態でしないでほしい。 私達はまだ明確に言葉で表せるような関係ではなく、曖昧なまま共にいるのだから。 「……」 「好きじゃないなら、こんなことしないよ」 「え……」 その言葉は、どこか遠く知らない誰かが言っているようだった。 それだけ意外な言葉に思えたんだ。 「好きだって言ってるの? 聞こえてないの?」 「えっ……、えーーー!!」 イサが私のことを好きだなんて……。 嬉しい。どうしよう、すごく嬉しい。 「えっ、どうして泣くのさっ」 「だって、嬉しいから……」 「あー、もう泣きやみなよね。泣くと不細工だから」 辛辣な言葉も冷たい態度も、照れ隠しって知っているから。 こんなにも彼が好きで、こんなにも嬉しい。 「ねぇ、ユノ?」 「ん。何?」 涙ぐむ私の頬を拭い、優しく慰めてくれる手に安心する。 子供っぽい年上の彼は、私が泣いたときだけはひどく優しい。 「僕も嬉しくなりたいな」 「えっ……」 途端反転する視界。イサの背に見える天井。 痛くない程度に繋ぎとめられた両手に、事態をようやく理解する。 「君からかうのって楽しいんだもの。悪戯してもいいよね?」 「いや、良くない! ちょっと、イサ。重ーい。どいてー」 「嫌」 私の抗議はあっけなく却下され、抵抗しようとした腕はベットに甘く沈んだ。 二人の夜は長い。 |
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03 唇に封をして(ジェラルド) 「ユノ……離してください」 「嫌よ」 URCの基地。私と彼以外いない廊下。 昼でも薄暗いここは、夜になるとまるで誰もいないような静寂に包まれる。 そして今も。彼の腕を掴んでいる今もとても静か。 「今度はどこにいくの?」 「……あなたに、言う必要はないはずです」 冷たいその言葉は、問う私を巻き込まないように。 心配させないようにと、彼らしい優しさの上だと分かっていた。 けれど、それは拒絶されているようにしか聞こえない。 「そんなことないっ! 私はジェラルドのこと、す」 「お願いですから。それ以上、言わないで」 唇を指で封じてゆるく首を振る。 一連の動作が壊れ物を扱うように優しくて。 けれど、それが悔しくて、私は俯く。 「時々……」 「……」 「ジェラルドの……優しさは、痛いよ」 私の言葉に、痛々しく微笑んだだけ。 ジェラルドは何も答えなかった。 |
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04 首筋に花(ウィル) 「おかえりなさい、ユノちゃん」 「ただ……い、ま……」 玄関の扉を開けて、まず感じたのは不穏。 ぴりっと緊張した空気が家中に満ちているように思えた。 「ウィル……怒ってる?」 「どうして、そう思うの?」 扉を開けそのまま部屋に引き返すウィルの後を、慌しく追いかける。 その背中は追いかける私を少しだけ拒絶するようだった。 ようやく追いついて先回りして、その顔を見上げて、私は驚く。 そこには少しだけ泣きそうで、弱々しい笑みを浮かべたウィルがいた。 「どうして……?」 「……君が」 「私が? 何?」 私の頬をゆっくりと撫でて、その手は腰に回される。 密着する体と体温。 温かいはずなのに、何故か冷たい。 「せっかくの休日に君が僕を放って、どこかの誰かと仲良く遊んできてもいいんだ」 「ウィル……?」 頼りない笑みを浮かべながら、私を確かめるように触れる。 頬、唇、鎖骨、肩、腰。 次第に下がっていく手はゆっくりと私を抱きしめる。 「いいんだ、たとえ君が誰と話そうとそれは君の自由で」 「ぁ……」 「僕に縛る権利なんてないから」 首筋から走った微かな痛みに呻いた私をクスリと笑う。 その笑みはいつものウィルが浮かべるようなものではなく、電流に似た衝撃が背筋に走る。 艶めく瞳に射抜かれて、身動きが取れなかった。 「でも、それでも嫉妬することぐらい……、君は許してくれるかい?」 こくんと頷くと、くすっと笑った声がうなじから響いた。 肌に触れた吐息は驚くほど熱かった。 |
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05 親愛なる(ジュピター) 青い、青い、深い海で目を覚ます。 一切の物音のしないその場所で一人、中々帰ってこない半身を待つ。 人ならば死を迎えてもおかしくないほどの長い時間、ただひたすら一つのことを糧にしていた。 「マーキュリー……」 呼びかけに答える声はまだない。 全てを託した相棒は、いつになったら帰ってくるのだろうか。 「……お前が帰ってくるのが待ち遠しい、マーキュリー」 どんな者を連れてくるのだろうか。私と仲良くできる者だろうか。 今度こそ失わずにいられるだろうか。不安だけが積もる。 けれど、己の半身が連れてくる人物だ。間違いないだろう。 その点は信用している。 「待っている。だから、早く帰ってこい……」 いつまでも待とう。いつかお前が私の友を連れてくるその日を。 |
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06 終わりの見えた恋(プラエ) 「ユノ……」 最近ずっと君の事ばかり考えている。 沈んだ顔、はにかんだ顔、泣き顔、そして笑顔を。 思い出しては胸の真ん中がきゅぅと痛む。 嬉しいけれど、悲しい。悔しいけれど、愛おしい。 あぁ、僕はユノに恋をしているんだね。 だけど、僕にはこの恋の終着点が見えている。 出会って、まだ季節が一回りもしていないのに。 恋というのは、こんなものだったんだね、チェスター。 通りで上手くいかないわけだ。 『……プラエ?』 ユノが呼びかける声が聞こえる。 会いたい。でも、会いたくない。 会って、君の声を聞いて、君の笑顔を見て。 それでも、僕は終わることを許すことが出来るのだろうか。 好きで好きで仕方ない君を、この世界に残して僕は去ることが出来るのだろうか。 脳内に響く君の声。僕に笑いかける優しい笑顔。 思い出すそれは、甘く僕を誘惑する。 それに抗おうとしても、最終的に勝つのはいつも。 ただひたすら、君に会いたい気持ち。 「……どうかした?」 「あのね……」 僕らに残された時間は、あまりにも少ない。 |
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