:注意:

ひたすら甘い。
もしくはシリアス甘。淡甘。
糖尿病に気をつけろ!




□□□
□□




01 恋人みたいな(ノディ)

「ほら、ユノちゃん。さっさと降参して」
「いや、です……」

差し出したスプーンの上、クリームたっぷりの甘いケーキ。
そして、少し困惑した表情を浮かべる僕の愛しい人。

「はい、あーん」
「……」
「あーんして」

馬鹿みたいにしつこく「あーん」と繰り返す僕とスプーンを、まだ混乱した面持ちのユノは交互に見つめる。
そんな仕草が言葉では言い表せないくらい可愛くて、僕は思わず微笑んだ。

「あーん」
「……もう、しょうがないですね……」

照れながらも、ユノはフォークの上のケーキにパクリと食いついた。
その顔は熟れた果実のように、赤い。

「おいしい?」
「……甘い、です」

問う私から、必死に目をそらすユノの小さな努力が微笑ましかった。
そんなことしたって、顔が赤いのは誤魔化し様もない。

「ふふ、ごちそうさま……」
「え……?」

僕の言葉にユノはやっとこちらを向いた。
交わる視線。ユノは訳の分からないといった顔をした。

「どういう意味ですか……?」
「……ナイショ」
「えー、教えてくれてもいいじゃないですか」

嬉しさと少しの気恥ずかしさに、頬が緩む。
君の表情が僕にとって一番のご馳走だなんて、面と向かって言えるはずもないじゃないか。





□□
□□□






□□□
□□




02 悪戯をする5秒前(イサ)

「イサー?」

隣室で潜っているはずのイサに話しかける。
今回の件はたいしたことないって言っていたから、そろそろ戻ってくるはずなのだけど。
何の反応もない。

「イサ? 入るよ」

申し訳程度にノックをして入室する。
壁に背をつけてベットに座り込んでいるその姿から、軽い寝息が聞こえた。

「あ……ふふっ、寝てる」

ダイビングをしてすぐに眠ってしまったみたいだ。
つけたままのゴーグルを外し、ベット脇のサイドテーブルに置く。
コトリという音が思ったより室内に響く。

「いつもこんなんだったら、可愛いのになー」

傍らに膝をついて、ふにふにと頬っぺたをつつく。
私とイサの重みで沈み込むベットの感触に良く似ている。
柔らかさは極上。いつまでも触っていた気分だ。

「むむむ、スベスベでサラサラ」

肌はとても滑らかで、髪は櫛通りの良さそうなサラサラ具合だ。
染めているのに、絡まることのない髪は、とても羨ましい。

「いいなー、イサ」
「……何が?」
「えっ……」

呆けた返事を返した瞬間、軽く触れた柔らかいもの。
それの正体に気づいたとき、私はイサから充分な距離をとった。

「いま、何……してっ」
「んー、何って……キス?」

いや、私に聞かれても。
――って、それよりも、どうして私に!!

「なっ、何で……!?」
「近づいてきた君が悪いんじゃない」
「でも、どうしてっ……」

この友達以上恋人未満の状態でしないでほしい。
私達はまだ明確に言葉で表せるような関係ではなく、曖昧なまま共にいるのだから。

「……」
「好きじゃないなら、こんなことしないよ」
「え……」

その言葉は、どこか遠く知らない誰かが言っているようだった。
それだけ意外な言葉に思えたんだ。

「好きだって言ってるの? 聞こえてないの?」
「えっ……、えーーー!!」

イサが私のことを好きだなんて……。
嬉しい。どうしよう、すごく嬉しい。

「えっ、どうして泣くのさっ」
「だって、嬉しいから……」
「あー、もう泣きやみなよね。泣くと不細工だから」

辛辣な言葉も冷たい態度も、照れ隠しって知っているから。
こんなにも彼が好きで、こんなにも嬉しい。

「ねぇ、ユノ?」
「ん。何?」

涙ぐむ私の頬を拭い、優しく慰めてくれる手に安心する。
子供っぽい年上の彼は、私が泣いたときだけはひどく優しい。

「僕も嬉しくなりたいな」
「えっ……」

途端反転する視界。イサの背に見える天井。
痛くない程度に繋ぎとめられた両手に、事態をようやく理解する。

「君からかうのって楽しいんだもの。悪戯してもいいよね?」
「いや、良くない! ちょっと、イサ。重ーい。どいてー」
「嫌」

私の抗議はあっけなく却下され、抵抗しようとした腕はベットに甘く沈んだ。
二人の夜は長い。





□□
□□□






□□□
□□




03 唇に封をして(ジェラルド)

「ユノ……離してください」
「嫌よ」

URCの基地。私と彼以外いない廊下。
昼でも薄暗いここは、夜になるとまるで誰もいないような静寂に包まれる。
そして今も。彼の腕を掴んでいる今もとても静か。

「今度はどこにいくの?」
「……あなたに、言う必要はないはずです」

冷たいその言葉は、問う私を巻き込まないように。
心配させないようにと、彼らしい優しさの上だと分かっていた。
けれど、それは拒絶されているようにしか聞こえない。

「そんなことないっ! 私はジェラルドのこと、す」
「お願いですから。それ以上、言わないで」

唇を指で封じてゆるく首を振る。
一連の動作が壊れ物を扱うように優しくて。
けれど、それが悔しくて、私は俯く。

「時々……」
「……」
「ジェラルドの……優しさは、痛いよ」

私の言葉に、痛々しく微笑んだだけ。
ジェラルドは何も答えなかった。





□□
□□□






□□□
□□




04 首筋に花(ウィル)

「おかえりなさい、ユノちゃん」
「ただ……い、ま……」

玄関の扉を開けて、まず感じたのは不穏。
ぴりっと緊張した空気が家中に満ちているように思えた。

「ウィル……怒ってる?」
「どうして、そう思うの?」

扉を開けそのまま部屋に引き返すウィルの後を、慌しく追いかける。
その背中は追いかける私を少しだけ拒絶するようだった。
ようやく追いついて先回りして、その顔を見上げて、私は驚く。
そこには少しだけ泣きそうで、弱々しい笑みを浮かべたウィルがいた。

「どうして……?」
「……君が」
「私が? 何?」

私の頬をゆっくりと撫でて、その手は腰に回される。
密着する体と体温。
温かいはずなのに、何故か冷たい。

「せっかくの休日に君が僕を放って、どこかの誰かと仲良く遊んできてもいいんだ」
「ウィル……?」

頼りない笑みを浮かべながら、私を確かめるように触れる。
頬、唇、鎖骨、肩、腰。
次第に下がっていく手はゆっくりと私を抱きしめる。

「いいんだ、たとえ君が誰と話そうとそれは君の自由で」
「ぁ……」
「僕に縛る権利なんてないから」

首筋から走った微かな痛みに呻いた私をクスリと笑う。
その笑みはいつものウィルが浮かべるようなものではなく、電流に似た衝撃が背筋に走る。
艶めく瞳に射抜かれて、身動きが取れなかった。

「でも、それでも嫉妬することぐらい……、君は許してくれるかい?」

こくんと頷くと、くすっと笑った声がうなじから響いた。
肌に触れた吐息は驚くほど熱かった。





□□
□□□






□□□
□□




05 親愛なる(ジュピター)

青い、青い、深い海で目を覚ます。
一切の物音のしないその場所で一人、中々帰ってこない半身を待つ。
人ならば死を迎えてもおかしくないほどの長い時間、ただひたすら一つのことを糧にしていた。

「マーキュリー……」

呼びかけに答える声はまだない。
全てを託した相棒は、いつになったら帰ってくるのだろうか。

「……お前が帰ってくるのが待ち遠しい、マーキュリー」

どんな者を連れてくるのだろうか。私と仲良くできる者だろうか。
今度こそ失わずにいられるだろうか。不安だけが積もる。

けれど、己の半身が連れてくる人物だ。間違いないだろう。
その点は信用している。

「待っている。だから、早く帰ってこい……」

いつまでも待とう。いつかお前が私の友を連れてくるその日を。





□□
□□□






□□□
□□




06 終わりの見えた恋(プラエ)

「ユノ……」

最近ずっと君の事ばかり考えている。
沈んだ顔、はにかんだ顔、泣き顔、そして笑顔を。

思い出しては胸の真ん中がきゅぅと痛む。
嬉しいけれど、悲しい。悔しいけれど、愛おしい。

あぁ、僕はユノに恋をしているんだね。

だけど、僕にはこの恋の終着点が見えている。
出会って、まだ季節が一回りもしていないのに。

恋というのは、こんなものだったんだね、チェスター。
通りで上手くいかないわけだ。

『……プラエ?』

ユノが呼びかける声が聞こえる。

会いたい。でも、会いたくない。

会って、君の声を聞いて、君の笑顔を見て。
それでも、僕は終わることを許すことが出来るのだろうか。
好きで好きで仕方ない君を、この世界に残して僕は去ることが出来るのだろうか。

脳内に響く君の声。僕に笑いかける優しい笑顔。
思い出すそれは、甘く僕を誘惑する。
それに抗おうとしても、最終的に勝つのはいつも。

ただひたすら、君に会いたい気持ち。

「……どうかした?」
「あのね……」

僕らに残された時間は、あまりにも少ない。





□□
□□□






□□□
□□




09 盗られた彼女(ウィル・ジュピターED)

別窓開きます





□□
□□□