御史台・中庭、昼


<冗官仲間>
「そうだっ、私達と一緒にお昼でもいかがですか?」
<静蘭>
「え……」
<秀麗>
「ちょっと、静蘭だって忙しいんだから、そんな事」
<静蘭>
「いいですよ……」
<秀麗>
「いいの? 忙しいんじゃなくて?」
<静蘭>
「ちょうど昼休憩でしたし、人数は多い方が楽しいですから」
<冗官仲間1>
「よしっ、昼飯だぁーー」
<冗官仲間2>
「うおー」
<二人>
「……」
<静蘭>
「元気ですね」
<秀麗>
「……いつものことよ」

一気に何人もの(大きな)子供を持った気分だ。
お昼ごはん時は、いつだって騒がしくなる。

<清雅>
「何をやっているんですか?」
<秀麗>
「え……」

聞きなれた声。聞きなれた調子。でも、それは別物だ。

<秀麗>
「清雅……」
<清雅>
「いつもここで食べてるんですか?」

ニコニコと笑いながら問う清雅の心中は計り知れない。
何を考えているんだか。

<静蘭>
「いいえ、今日はたまたまここに……」
<清雅>
「そうですか……」
<清雅>
「秀麗さん、僕のお弁当はありますか?」
<秀麗>
「え……あ、これがそうだけど」

いつもの通り、用意してきたお弁当を渡す。
丁寧に受け取る清雅の様子が普段と違って、まさに『好青年』に見える。
この猫かぶりめ。

<冗官仲間1>
「あ、清雅さんじゃないですか!」
<冗官仲間2>
「お久しぶりです! あのときはどうもありがとうございました!」
<清雅>
「いいえ、僕の力が役に立ったなら光栄です」

そういえば、元冗官仲間達には、清雅はあの冗官騒ぎの好青年のまま、覚えられているのか。
とはいえ、ムカつくほどキラキラした笑顔を振りまく清雅に鳥肌が立つ。

<冗官仲間2>
「こっちへどうぞ、清雅さん」
<清雅>
「いいえ、お気遣いなく。僕はあちらで昼食をとりますから」

そう言って、私特製のお重箱を持って、日陰の方へ去っていく。
何のために来たんだろう。お弁当を取りに?
それとも、嫌がらせ?

<秀麗>
「なんだったの、あれ……」
<秀麗>
「久々に見たけど、無駄に好青年……」

いつの間にかどこからか晏樹様までやってきて、辺りはとても騒がしい。
彼らは晏樹様の素性を知らないのか、気軽に話しかけていた。

木陰に目をやる。
ワイワイと盛り上がるこちら。
静かな日陰に一人の背中。

<秀麗>
「……」

隅で一人でいる清雅が気になる。
座っている机の正面に私も座った。

ストン

<清雅>
「……」

清雅はこちらに視線をやっただけで、何も言わない。
私も話さない。
静寂が場を満たしていく。

でも、それは居心地の悪いものではない。
遠く喧騒を聞きながら、お茶を片手に一人和む。

<清雅>
「お前……、あっちに行けよ」
<秀麗>
「……どうして?」
<清雅>
「甘ったれで馴れ合いの好きなお前はあっちの方が心地が良いだろう?」
<秀麗>
「そうね……。でも、ここにいるわ」

一人で佇む清雅の背中が少し淋しそうに見えたから。
今日は特別だ。

<清雅>
「気色悪い奴……」
<秀麗>
「あんただって」

珍しく穏やかな午後だった。



※このサンプルは完成版では、かなり変更する可能性があります。