さて、愛を知らない二人の恋の話をしようか

これは御史台で起きたかもしれない恋物語


















「恋なんてしない」
そういった声は月夜に溶けた







『甘いって言われたってかまわない。私は私の道を行くわ』
 ――初の女性官吏に風当りは冷たく 紅家の姫君 秀麗






その睨む視線さえ
独り占めしたいと願った







『ただ男に優しく甘やかされたいなら、こんな所に来なければいい』
 ――没落した陸家の跡取り 監察御史 清雅






その気遣いは
疲れた心にやんわりと染み入って







『いいの、あれ……』
 ――さりげなく秀麗を支える 御史履行 蘇芳






包み込むような優しさに
癒されていたのは確かで







『はい。お嬢様もお帰りですか?』
 ――その微笑みの裏は黒く 紅家の家人 静蘭






けれど
優しさだけじゃ生きていけなかった







『二人で妓楼に行ってこい』
 ――冷徹で冷酷な上司 御史台長官 皇毅






『だって君に会いたかったんだ。しょうがないよ』
 ――神出鬼没で掴み所のない 門下省次官 晏樹






その冷たさにゆっくりと
惹かれていって







「暇なんだろ? なら相手してやるって言ってるんだ。時間なんてあっという間だぜ」
「お生憎サマ。清雅にあげる身体なんてひとつも持ち合わせておりません」





「いつも有り難う。感謝してるわ」
「それは、どうも……」





その時折見せる弱さを
包み込む強さを手に入れたかった







「お前なんかにオレの気持ちが分かるはずもない」
「当たり前でしょっ」






「まったく仕方のないお姫様だ」
「え、あ、晏樹様っ」





絶対に恋なんてしない
そう思っていたのに……







「いつか追い越すわよ」
「……いいぜ。でも、忘れるなよ。オレも毎日着々と進んでいることに」









さて、愛を知らない二人の恋の話をしようか