【26.世界】

「怖くない?」
「……どうして?」

ギシっと音を立てるベットの端、腰をかけた貴方と向き合う。
手を伸ばせばすぐに届く距離。あと一歩が踏み出せなかった。

「初めてなんだろ?」
「……うん」

気遣うように、優しげに細められる瞳。
疑うことを知らないそれに、罪悪感で胸が痛む。
でも、それは錯覚だと思い込むことにする。
そうでもしないと、この計画は失敗してしまうからだ。

「おいで」
「……」

差し伸ばされた手。そこに自分のを重ねる。
思いっきり引っ張られて悲鳴を上げると、広い胸にぶつかった。

私より高い体温。軽く汗ばんだ肌。
腰に回る腕。初めて触る、男の人の身体。
少しだけ怖いと思う心を止めることなんて出来ない。

「何か変な感じ」
「……何が?」
「だって俺、姉さんの恋人の妹、抱きしめてんだぜ? 変だろ?」
「……うん、確かに変だね」

それが私に仕組まれたことだとも知らずに、貴方は私を好きになった。
これまでは、全部計画通りだ。
胸に芽生えた、馬鹿馬鹿しくもこそばゆい、この思い以外は。

見下ろす貴方の肩に手を添える。
至近距離に感じる男性に鼓動が早まる。
どれだけ覚悟しても、やっぱり恐怖感が消えない。

「好きだよ、梓」
「……うん、私も」

心にもないことを言う自分に反吐が出る。
利用されているなんて露も思わず、私を好きだと抜かす貴方は本当に馬鹿だ。
心の底で自分の姉に復讐を誓っているだなんて、夢にも思わないのだろう。

私は、私から兄を奪ったあの女に、苦汁を舐めさせてやりたい。
だから私は、あいつの一番大事な貴方を奪うのだ。
あの女に復讐するためなら、どんな甘言も吐いてみせる。
たとえ、気持ちのない貴方に抱かれることだって、もう怖くない。

肩に置いた手を首に回す。
じぃーっと潤んだ目で見つめると、貴方は熱い息を吐いた。

「ごめん……手加減、できない」
「え……――んっ!?」

塞がれる唇。呼吸も唾液も全て呑まれる。
重なり倒れる身体。軋むベット。
まくられた服。触れる冷たい手。
愛おしいと感じた自分を忌まわしく思った。

(08.09.23)






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