【20.鍵】

「ダメっ!」
「いいじゃないですか、義姉さん」

近づく腕を思い切り払いのける。
その手を強く掴まれ、顔をしかめた。
びくともしない右手が混乱を煽る。

「よくない! あなた、何言ってるか分かってるの!?」
「……分かってますよ。分からずに兄嫁なんて口説きません」

必死に押し返そうとする左手が柔らかく掴まれた。
そのまま口元に持ってかれる。
この後の展開が予想できて、私は手を振り払う。

それに、傷ついた表情をするあなたはずるい。
私は悪いことをしてないはずなのに、そういう気分にさせる。
悪いのは、兄嫁に横恋慕してるあなただって、理性では理解しているのに。

「私は、あなたの兄さんのっ」
「そうですね。……あなたは人妻だ」

潤んだ瞳に炎を宿して、あなたが目の前に迫る。
さっき拒んだ左手を、もう一度柔らかく握られる。
微かにかかる吐息に、抵抗を思い出した。

でも、出来ない。
夫によく似た目元、口元があなたを拒めなくする。
優しく押し付けられた唇が、間をおいてゆっくりと離れた。

「でも……それでも、愛してます」
「……」
「愛してるんですよ、義姉さん」

あぁ、その言葉はどれだけ容赦なく私を縛るのだろうか。
言われたその一言だけで、私は身動きを封じられる。
まるで、鳥篭に心が囚われて、行き場を失くしてしまったみたいに。
見つめる目から愛が染み込んで、私はその重さに動けなくなる。

緊張で強張る身体を、ひんやりとした手がゆっくりと撫でた。
それだけで触れられた部分が熱を持つ。
唾を飲み込む音がやけに耳に響く。

その、身体に触れたい。
何のためらいもなく、そう思った。

「……知らないわよ」
「……えぇ、一緒に地獄に落ちましょう」

首に腕を回し、性急なキスを受け入れる。
罪悪感で痛む胸から、必死に目を逸らして、心に鍵をかけた。

(08.07.26)






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