【35.魔法】

「見て、見て、見てぇー」
「どうしたっ……うわっ」
「へへへー、重いだろー」

オニューのワンピースを着こんで、鷹ちゃんの背中にダイブする。
うめき声があがった気がするけど、そんなのは無視。
わたしには、鷹ちゃんの生命の危機より大切なことがあるのだ。

「ほら、美弥。降りろ」
「じゃーん! どう、どう? 可愛いでしょっ!」

おろしたてのワンピースは水色で、ミニスカート。
タートルネックの首元には、蝶々結びの白いリボン。
大きなひだの隙間から、水色と白のチェック模様が見える超掘り出し物だ。

見つけた瞬間、わたしに絶対に似合うと思った。
そして、さっき鏡を見て、確信を深めた。
あとは、この年上の恋人に褒めてもらうだけだ。

「あぁ、可愛い」
「……もっと言って」
「可愛いよ、美弥」

鷹ちゃんの『可愛い』には、きっとわたしにだけ効く薬が入っているに違いない。
例えば、『赤面煽り薬』とか、『気分高揚薬』とかそういう類のものが。
だって、そうじゃないなら、こんなに嬉しくて、こんなに恥ずかしい気持ちは何なんだ。
黙り込んでしまったわたしの顔を見て、鷹ちゃんは微笑みをいっそう深くする。

「……よく似合ってる」
「へへっ、嬉しいなぁー」
「……可愛い」
「もっと」

言われた回数だけ、きっとわたしは可愛くなれる。
可愛いは魔法の呪文。女の子だけの特別なのだ。

(08.08.08)






NEXT⇒
モドル お題TOP